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2025.06.24 セミナー

【EDIX東京2025 講演レポート/教育ICT政策支援機構】 校務DXが進まない理由とは?教育現場に横たわる課題と、目指したい新しい学校のカタチ

さつき株式会社は、2025年4月23日(水)〜25日(金)に開催された「第15回EDIX(教育総合展)東京」に出展いたしました。

EDIX(教育総合展)とは、小学校、中学・高等学校、大学、専門学校、教育委員会、地方自治体、塾・予備校などの教育関係者が多数来場する、日本最大級の教育分野の総合展示会です。

当社では、「ミライタッチ」の機能や現場での活用方法などを担当者が実演デモを交えて詳しくご紹介したほか、自治体・学校の現場の先生方による特別セミナーも開催されました。

今回の記事では、登壇された「一般社団法人 教育ICT政策支援機構」の代表理事である谷正友氏による講演「新しい学校のカタチ〜校務DXに必要なこと〜」を振り返ります。

 

【登壇者プロフィール】

一般社団法人 教育ICT政策支援機構

代表理事 谷 正友

1999年より民間企業でシステム開発に従事。金融・銀行向けシステムや制御システム、ECサイト構築・運営などに携わる。2014年より奈良市役所に転職し、教育委員会にて学校ICTに従事。文科省/総務省の委託事業やGIGAスクール、県域統合型校務支援システムのプロジェクト等に取り組む。その後、2022年に一般社団法人 教育ICT政策支援機構を設立し、全国各地の学校DXを支援。現在は同法人の代表理事の傍ら、JDiCE理事、デジタル庁デジタル推進委員、文部科学省学校DX戦略アドバイザー、富山市教育委員会 教育DX政策監も務める。

教職員の残業時間は、依然として「過労死水準」を超えたまま

谷氏はまず、文科省が策定する教育情報セキュリティポリシーのガイドラインや、教育データの利活用に係る留意事項が2024年度に改訂されたことを紹介。教育DXが大きく進展していることを示しました。一方で、教育現場には依然として多くの課題が残っていると指摘しました。

谷:

GIGAスクール構想の取り組みによって、授業は着実に変化してきています。ですが、この変化は全国すべての学校で起きているわけではありません。地域間、学校間、学年間、学級間で大きな格差が生まれているんですね。この格差を是正するためには、ベースとなっている校務をきちんとICT化し、どの教員もそれを最大限活用できる環境を作ることが重要です。今はITに強い人だけが一生懸命ICTを活用しているのが現状ですが、これを学校設置者である教育委員会が主導者となって、面的な広がりに変えていかねばなりません。

谷氏はまた、教職員の月間時間外労働が「過労死水準」を超える60時間前後で横ばいとなっている現状を示しました。

谷:

ICTには多額の予算が注ぎ込まれているにも関わらず、先生たちの働き方改革はほとんど進んでいません。なぜならICTの導入の仕方、整備の仕方、使い方が悪いからです。

たとえば、9割の自治体は教室用のネットワークと職員室用のネットワークを分けていて、先生は業務内容に応じて端末を変えたり、ログインしなおしたりしなければなりません。また、学校外では使えないシステムが多く、自宅や出張先での作業ができないのも大きな問題です。ICTは仕事を楽にするためのものなのに、逆に業務を煩雑化させてしまっているんですね。

今の状況から抜け出すには、場当たり的な対処ではなく、計画的なロードマップに基づく着実な実行が必要です。

「やるべきことを後回しにしない」姿勢が、教育DXを前進させる

谷氏は教育現場の現状を踏まえて、各教育委員会が向き合うべき課題について語りました。

谷:

教育DXがうまく進んでいない自治体は、向き合うべき課題を後回しにして、見栄えのする短期的な成果ばかり追い求めようとする傾向があります。文科省はまず、学校の基盤になる「ゼロトラストをベースにしたクラウド環境」を構築した上で、あるべき学習や教育を目指そうとしています。しかし「難しい言葉でよく分からないから」とこの課題を一旦脇に置いて、土台がボロボロなまま表面的に達成できそうなKPIだけに取り組もうとしてしまうんです。加えて、DXを主導していた先生や教育委員会の職員が異動になったことで、計画が道半ばで頓挫してしまう地域も多いですね。

「国は、教育現場の課題ややるべきことがよく分かっていないのでは」と思っている方も多いと思いますが、実は教員の勤務実態の過酷さや、デジタル基盤の自治体格差といった問題のこと、教師が働きやすい環境を実現してからでないと「児童生徒の学びの質向上」や「学習支援の充実」を達成するのは難しいことなど、国はとてもよく理解しているんです。そのための予算も確保されていますし、対策も練られています。あとは、各自治体が課題と真摯に向き合って取り組んでいくことさえできれば、今ある問題は解決されていくはずです。

 

「働きやすさ」と「学びやすさ」が両立する教育現場を目指して

続けて谷氏は、新しい学校のあるべき姿について語りました。

谷:

これまで話してきたとおり、今取り組むべきは「働きやすさ」と「学びやすさ」が両立した教育現場を作ること。きちんとICTが機能する環境基盤を整えた上で、各期の学習指導要領に沿った教育や今の時代に応じた施策を進めていただきたいです。

先ほど「ICTは仕事を楽にするためのものなのに、逆に業務を煩雑化させてしまっている」と話しましたが、その壁にぶつかっている自治体は学習指導要領や新しい施策ばかりに目が向いているケースが多いと思います。たとえば、英語の指導者しかいないような小さな町でも、「新たに道徳の授業でこのテーマを取り上げてほしい」という指示が出たら一生懸命それに取り組みます。ところが、学校ICT基盤やセキュリティに関する通達には鈍感で、積極的に取り組もうとはしてくれないんですね。

しかし、文科省は「学校ICT基盤・セキュリティ」と「生徒の学びに関する新たな施策」の動きはリンクしている前提で政策を立てるため、両立できていない自治体は学校に大きな負荷をかけることになるのです。

谷氏はまた、令和7年3月に改訂されたセキュリティポリシーのガイドラインの主なポイントにも触れました。 

谷:

今回大きく変更されたのは、情報資産の整理方法です。 これまでの「ネットワークの系統」に基づく整理から、「アクセス主体(誰がアクセスするか)」を基準とする方式へと移行します。詳しくは、ぜひガイドライン本文を読んでいただけたらと思います。

またこのガイドラインでは、デバイスの適切な管理が必要であることや、先生が使用する端末を1台に統一して使い勝手をよくすること、教育・教務のネットワークを統合することなども強く謳われています。もちろん、ネットワーク統合には適切なセキュリティ対策も不可欠ですね。今年3月に公開された『次世代校務DXガイドブック』には、学校DXがうまく進んでいる自治体の事例がまとめられているので、こちらも参照いただけたら幸いです。

子どもの未来を照らす鍵は、シンプルかつ安全なICT環境にあり

最後に谷氏は、奈良市の事例をもとに「新しい学校のカタチ」を示しました。

谷:

奈良市の教員は、授業準備も校務もChromebook一台で行っています。子どもたちと連絡を取り合うのも、教員同士で情報共有するときも、使用するのは同じGoogle Chatですし、誰かと一緒に作業をする場合は、授業でも職員会議でも同じようにGoogleの共同編集機能を使います。非常にシンプルですよね。奈良市のように、難しいことを考えず、かつ安全に使えるICT環境を構築することが「働きやすさ」と「学びやすさ」の両立につながるのではないかと私は考えています。

最後になりますが、すべての子どもたちが安心していられる場所を、ICTを通じて実現できれば、こんなに嬉しいことはありません。

この記事の著者

ミライタッチ編集部

ミライタッチ編集部

ミライタッチは、1931年創業の“社会貢献事業”会社であるさつき株式会社が開発。皆の夢を叶えて、豊かな未来の創造のお手伝いをすることが、私たちの使命です。コラムでは、電子黒板に関する情報や、教育現場で働く方々に向けた情報発信を行なっています。